マルホランド・ドライブ

 ◎マルホランド・ドライブ(Mulholland Drive)

 

 夢の中で、ぼくは君とこのダイナーにいたんだ。裏には正体不明の男がいた。とかゆーわけのわからない話をするのはいつものリンチなんだけど、席を立ったときには、テーブルに残っていた食べかけのモーニングプレートがあったのに、カットが変わってふたりの男の客が店を出るときには跡形もなく消えている。つまり、かれらは、はなからここには存在してなかったってことか?

 ほうら、ぞくぞくする時間の始まりだ。

 電話帳を調べると載ってるとかっていう好い時代だから、こういうちょっとした映像の小細工がぞくぞくしたのかもしれないけどね。

 それで、途中、カウボーイハットのおっさんがいうんだな。人の態度や立ち振舞いで、その後の人生が決まる。そーか、それが主題だったのか?けど、このおっさんはいったい何者なんだ?おっさんだけじゃない。まるで『ツイン・ピークス』の赤い部屋のような謎めいた部屋で、この世の動きをすべて決めているかのようなマイケル・J・アンダーソン(ツイン・ピークスの小人役ね)もそうだ。彼が電話をしているんだけど、こういう得体の知れない連中がこの不条理を操ってるってな感じになってるんだね。

 それにしても凄いな、ナオミ・ワッツ。オーディションのシーンなんか、凄い演技だ。オナニーしているときのすべてを破壊してやるっていうような顔もまた凄い。いったい、なにが起こったんだ?て聞きたくなるくらい。

 まあそれでね、『サンセット大通り』はプールの死体が語るわけだけれども、こちらはテラスハウスのベッドの上で自殺した猿みたいな女優が死にながら夢を見ているってわけで、それがナオミ・ワッツっていうことになるんだね。だから、カウボーイハットのおっさんに、こう告げられるんだな。

「おめざめの時だよ、子猫ちゃん」

聖職の碑

 ◎聖職の碑(1978 東宝 シナノ企画) 

 

 大正2年当時、信州箕輪に北大路欣也寺や三浦友和や田中健の演じるような、白樺カブレと呼ばれた「進歩的な」教師がいたかどうかは知らないが、戦後、日本はこういう「進歩的」なものを知らず知らずのうちに教え込まれてきたことはまちがいないかもしれないね。

 そんな教師たちの理想主義を、下川辰平は怒るんだな。自由という名のもとに、理屈をこね、体制に反抗する子が増えたと。助役や頑迷な親たちから見れば許しがたいような石膏ヌードのデッサンをさせる教師どもが増えたと。

 ま、わからないじゃない。

 でも、初めてこの映画を観たとき、当時、ぼくは青臭いお年頃だったんだけど、下川辰平の演じる助役はなんて古臭いんだろうと感じたものだ。けど、なんだかなあ、進歩的ってなんだろうな〜って、この頃、おもうようになってる。

 とはいえ、水は飲みたくても我慢しろ。飲めばすぐ汗になってまた飲みたくなる。苦しくなるだけだぞ。by三浦友和。そうなんだよね、白樺カブレでも、飲料に対してはかなり錯誤した意見になってる。いやもう、鶴田浩二演じる校長の鍛錬主義もそうだし、教育委員会の事なかれかつ権威主義もそうだし、時代だなあ。

 つか、いきなり、ぴんときた。

(そうか、この映画、あたらなかったのは子どもがつぎつぎに死ぬからか)

 長野県は後援にも立ってるから学校動員とかあったんだろうけど、やっぱり、子どもがつぎつぎに死んでいくってのはあんまり観たくないのかもしれないね。でもまあ、森谷司郎も『八甲田山』のあと(だったよね、これ?)ってこともあったんだろう、どうしても話がこぢんまりしちゃったかもしれないね。

 けど、木村大作、苦労しただろうなあ。山の稜線を主役にしたかったんだろうけど、どうしも真夏の山岳で稜線と雲をしっかり撮ろうとおもえば、手前の人間や景色はつぶされちゃう。いやいやいや、露出決めるの、大変だっただろうね。

哭悲 THE SADNESS

 ▽哭悲(哭悲 THE SADNESS)

 

 いやあ、こんなに不愉快でひどい映画はひさしぶりだな。

 ていの悪い自主制作映画みたいだ。臺灣の映画とはおもえないような、血みどろの気持ち悪いゾンビなのかなんなのかよくわからない白目のなくなった黒目人間どもの単なる残虐皆殺し映画でしかない。

 最初のあたりは、そーか、ゾンビがあふれると、テレビをつけても『國家警告』の文字が出て『緊急情報が出るまで待て』とされるのか、リアルだな~てなことをおもってた。でも、いきなり昔っぽいアニメが放送されたかとおもえば「悪魔のパレード」で、町のアナウンスが流れて『住民の皆さん、よく聞いてください。あらたな規定をお知らせします。男性の住民は今すぐ市役所へお越しください。全員のアソコを切って犬に食わせます。女性がお越しになった場合は道端で犬に犯させます』と。すごいな、とおもった。ここから、どんとん凄くなった。平和とか、穏やかとか、言ってられない。もう、血みどろの連続だ。自主製作映画みたいな分、なんとか我慢して観てられたけど、中盤あたりから、こりゃちょっと残酷すぎる、めちゃくちゃな映画だなとおもいだしたら、もう辛すぎてたまらなくなった。

 台北の郊外で、同棲しているカップルがいて、女の方が働きに出るんだけど、地下鉄に乗ってる中でゾンビの襲来が始まり、一方、男の方も郊外までゾンビ・パニックが始まり、指は切とされるわ、それでもバイクで彼女を助けに行かないといけないわってな観じで物語は進んでいくんだけど、結局は、このふたりはめぐりあえるんだろうか?っていう興味がたったひとつだけ残されるだけで、あとは、もう、めちゃくちゃすぎる。

漂流死体

 ◇漂流死体(1959年 86分)

 

 小宮光江が、いう。わたし、いくら背のびしても三國さんの奥さんにはなれないんだわ。すると、三國連太郎、な、き、む、し、とか言っちゃう。それも、ほっぺたをちょんちょんしながら、な、き、む、し、だ。うわ、古くさい濡れ場だな。おもわず、のけぞった。でもまあ、これが、当時はかっこよかったんだろう、たぶん。

 しかし、ふたり主演なのに、高倉健、なかなか出てこんのですよ。米軍の情報将校は疾走するし、それを追いかけてた刑事は殺されるし、でも、健さんは出てこない。ところで、加藤嘉はじめ、みんな中折れ帽かぶってんだな~とかつまらんことをぽつぽつおもって26分経過したとき、ようやく、新聞記者の後輩役で、健さんが登場。現場に入れない米軍と横浜県警に「しょーがねーな、こんなことじゃー」と悪態つくのは良いんだけど、おお、オールバックやん。この頃の健さんは、どうやらまだ自分のスタイルが決まってない時代だったようで、このあともしばらくオールバックなんだよね、たぶん。

 健さんはさておき、麻薬とかの密輸は、たいがい、米軍の影が見え隠れして、黒幕には謎の中国人とかがいたりする。定番だから、なんの新鮮味もないんだけど、まあ、なんとなく当時のハマの匂いが感じられるのが特徴かも。それと岸田劉生ばりの新興住宅地の荒削りな開発現場の土手や崖が、当時を匂わせる。

 でも、そうだなあ、あんまりドキュメンタリータッチってわけじゃないなあ。

聖なるイチヂクの種

 ☆聖なるイチヂクの種(دانه‌ی انجیر معابد イラン・ドイツ・フランス 167分)

 

 要するに、心が壊れちゃう、お父さんの話だけど、いやほんと、ラストカットのヒジャブの焚き火の動画がよくわかるだけに悲しい。

 ま、そんな抽象的なことはともかく、冒頭、盗聴されてると告げてランチに出るんだが、そこで呑んでるのが2リットルのコカ・コーラ。イランでも家庭の中では喫煙は嫌がられるようで、窓辺で外に排煙することになってるみたいだ。なるほど、世界中がそうなんだあ。

 マフサ・アミニの死のあと、独裁者をたおせというスローガンの暴動が鎮圧されていくさまをネットで見たいといい、送ってもらってもフィルターが掛かってるから見られない。そこでVPNで送るという。リアルだな。

 予告編も宣伝文句もあらすじの拳銃が何者かに盗まれたとかいって、それがまるで冒頭のような印象をあたえるがこれはちがう。長女の友達が濃度騒ぎで機動隊の散弾銃によって顔の左をふかく傷つけられたことが事件のはじまりで、ここまでで四分の一の尺だからね。この散弾をピンセットで取り出すところは凄い。

 けど、この友達は寮にいたところ、服装警察に連行されて行方不明になるんだけど、それを救おうとして、長女が母親に頼む。この母親は高級そうなヒジャブをほっかむりするだけあって、夫の昇進を誇りにし、政府に逆らわないようにすることが家族の幸せだと自覚している。だから長女の頼みをきくことをためらう。

 結局、司法に顔の利く、とゆーかそこで働いている友人に友達の娘が行方不明になってるからと消息を探してくれと頼むんだが、あまり深入りすると、夫が革命裁判所の判事になれなくなるかもしれないという友人の忠告に戸惑う。

 このあたり、スマホで撮られたような映像がかぶさってくるんだけど、実際のものを第三者が撮ったものか、それとも演出なのかわからない。事実の映像だとすれば、イラン国内の情況はひどい。官憲の暴力沙汰が横行してることになる。この監督がフランスから遠隔で演出して撮ったのはよくわかる。

 けど、トランプの攻撃には沈黙してる。

 むつかしいな。じつにふしぎだ。既視感。

 山本薩夫の『不毛地帯』で、仲代達矢と秋吉久美子の父娘がデモについて言い合いをしているのとまったくおなじ構図が、ここでも父娘の言い合いになってる。けど、イランと高度成長期の日本とはなんとなく似ているが、現在の日本との差が激しすぎる。イランのマスコミは政府のいいなりでその報道を娘たちは嘘といい、父娘の喧嘩になる。日本のマスコミは政府を糾弾してその報道をネットの若者たちは嘘という。気味の悪い構図だな。

 けれど、父親の心情は理解されない。観客はわかる。妻もなんとなくわかる。娘たちにはわかってもらえない。夜中、パニック障害にもなるわね。でも、ここで映画はちょうど半分だが、ようやく拳銃が盗まれる。映画の宣伝部がなにも観てない証拠だな。

 しかし上手な脚本だな。拳銃が無くなる、長女が消えてる、まさかと観客はおもう、夫婦はふたりして夫が帰ったときのことをおもいだそうとする、前にそう映画の冒頭で護身用に拳銃を渡されたとき、シャワーに入るときに脱いだ服の間に拳銃があり、それを妻が見つけいつもしまう抽斗に入れるときのことはおもいだす、観客もその映像はありありとおもいだす、ところが今回、夫が帰ったときに拳銃はじつはベルトの腰に差してあったのを映像だけは撮られているが観客も夫婦も忘れてる、その拳銃はまるで当然のように無意識で抽斗に入れるが画面から外れて効果音だけで表してる。このとき、観客が怪しむのは長女だが、長女はほんとうに知らないかのように知らないといく、しかし母親は次女には訊かない、うまい。

 ここで登場するのが友人で、出世コースからは外れたものの、父親の同僚で尋問の専門家、そう、連行されてるはずの長女の友人を探してくれと頼んだママ友の夫だね。込み入った関係ながらも上手に繋げてる。

 それにしても次女はヒジャブの下にGパン履いてるけど、履いていいのかな?イランではチャイを飲むときにガンドという小さめの角砂糖か氷砂糖(サフラン風味のものもある)を口に含んでから飲む。すると、口の中で徐々に砂糖が溶けて、甘い味を楽しめる。ペルシアの伝統的な飲み方だが、故郷に帰ると、父親はそうする。タフトと呼ばれる絨毯席にあぐらをかき、ソフレという敷物をひろげ、円座になって食事もする。

 そのとおりにしたのは、故郷に帰ったことで心身の解放感を得た証かもしれない。西洋の文化を享受している子供たちに対する価値観と伝統の共有をさせようというのではなく、帰郷とはそういうものかもしれないという監督のノスタルジーもあるのだろうが、うまい演出だ。

96分

 ◇96分(96分鐘 臺灣 120分)

 

 爆弾を抱えたまま爆走していく2本の新幹線に対して、いろいろと対処していくんだけど、途中で何度か、いやそら無理だろ、と、おもったものの、ふしぎと興醒めはしなかった。でも、いくら時速30キロに落としても老人や子どもが新幹線からホームに飛び降りるとかしたら、大怪我しちゃうんじゃないか?

 てゆーか、新幹線の扉から並走してる新幹線の扉に飛び移るとか、いくらなんでもムリっすから~てなことをおもいながら観てたんだけど、まあ、そのあたりのことは爆走していく新幹線と画面にひきずられて、だんだんどうでもよくなってくる。

 それは、ほんと、画面のちからっては大きいわね。CGが凄いんだよ、ほんとに。

 そういうところからいえば、うん、おもしろく観ました。

 ただ、教唆されてた弟が落ちて死ぬのはだめだな。また悪夢の繰り返しになる。

 けどまあ、あれよね、台北から高雄までが96分しかないってのは現実にはとっても早くていいんだけど、物語にするにはちょっと短い気がするな。むかし、新幹線がない時代、台湾はもっとのんびりしてたような気もするんだけどね~。あ、もちろん、ぼくは日本人だから、臺灣が新幹線を導入してくれたことにはとっても感謝してるけど。

セプテンバー5

 ◇セプテンバー5(September 5 ドイツ・アメリカ 94分)

 

 そうか、ミュンヘンから収容所のあったダッハウは15キロしか離れてないのか。

 戦後27年って、当時は長いような気がしてたけど、今おもってみればほんと短いなあ。時の流れってのは、加齢にともって、感覚としてどんどん短くなっていくように感じられるようになるんだよね。

 まあそれはさておき、1972年9月5日、このパレスチナ武装組織「黒い九月」のひきおこしたミュンヘンオリンピックの選手村の人質事件とそれにつづいた銃撃による悲劇については、まあ、なんとなく憶えてる程度なんだけど、アメリカのクルーが撮ったアイマスクの犯人のひとり、この画像は忘れないな。それを放送しつづけてたクルーのセミドキュメントだったのね。

 でも、なんていうか、予算にかぎりがあったのか、それとも視点をずらすことをこばんだのかわからないけど、もうすこし全体像っていうか、アメリカ本国とのやりとりや飛行場での銃撃戦やら、いろいろ映像化できるところがあったんじゃないかって気もしないではない。ただ、そうか、こうやって生中継の歴史は始まったのね、なんだか皮肉な話だな~っていう感想には行き着くんだけどね。

 あ、それもあるけど、テロっていう単語が注目されたのはこの事件からだったの?ほんとに?知らなかったなあ。それも、ドイツ人の現地スタッフがもう苦肉の策みたいにして口走ったことからでしょ?へ~っだね。